八 月



夏の空ゑがくあなたに滴りし汗をしづかに拭ひてをりぬ



ヘルメスのサンダル履きて青空を翔けてゆきたし雲の峰まで



いかづちに真一文字に裂かれたる木股を晒す嵐が丘は



ゆふだちに洗はれてゐる夏草をひらひら見ゐる真夏の金魚



海霧晴れる間に交はす睦言も北の旅路の栞となりし 



屋外で雹降られてゐたやうな穴の開きたるチーズの欠片



ジル・ド・レの青き髯さへじりじりと焦がしてしまふ炎天の日よ



読み終へしユイスマンスを膝に置きくれなゐ深き朝焼を浴む







太陽が火の粉を散らしてゐるやうな真夏の昼は深まるばかり



朝顔も夕顔も欲し炎天に浴びるまみづのちひさな泉



いづくより来しか汝が聞かぬゆゑ今年の夏は果てることなし



ざくざくと氷苺に匙立てて儚き山を壊してしまふ



あなせつな滅びを纏ふ夕雲をふちから焦がす熱き西風



月さへも焼かれはじめてゐる予感兎もしゆるり毛皮脱ぎたり



水無月に生れし金魚のからだには赤いところがひとつもなくて



大樽の底に隠したくれなゐの酒を呷るか若きバッカス





(C)YAMASHINA MASHIRO

2005.9月


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