フォルテに向かふ
首すぢにびゆんと木枯吹き荒れて白きマフラー空に飛びたり
躓いた石はいらぬか今は亡きシュヴァルの作る宮殿思ふ
やすやすと睡蓮鉢のみづこほりなぜかメダカはこほらぬ不思議
絹さやのすぢをとりつつ観てをりし春の映画に泣かされてゐる
初夢を語り合ひたる人のゐてゑみこぼれゆく夢のつづきに
硝子戸の結露を拭ふ早朝にちひさく歌ふLa vie en rose
服を着て歩道を歩くプードルに道を譲りし晴れた冬なり
冬の椅子たれも座りてゐぬゆゑに木にしんしんと月光が降る
袋から紅き林檎がころがりて冬の車は果実の匂ひ
封蝋の手触りに似ていびつなる釦がボアに身をひそめたり
水仙を活けつつ聴きし少年の奏でるショパン、フォルテに向かふ
バルザックの殺めた架空のをとこたち何処に集ふや冬の夜更けに
スクリーンから俳優出でて恋をするカイロの薔薇とはいかなる薔薇ぞ
ひたすらに「ネックは左」を守りつつワルツレッスン終へて日曜
しなやかな金目の猫を従へてOn va acheter du poisson.魚を買ひ行く
冷たさがさらさら流れ着きてゐる二月の岸に白鷺の見ゆる
(C)YAMASHINA MASHIRO
2007.3月
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