+++++++++++++++   桜夜のゴヤ   +++++++++++++



東京へプラド展を観にゆかん 八分咲きなる神戸を発ちて

駆け上がる新幹線のホームには三羽の鳩が遊びてゐたり

車窓から流れゆく雲 ぽつりぽつりと何時どこからか降り出した雨

「東京は一年ぶり」と短髪の迎への君と歩く雑踏

桜降る雨の上野にゆくためにつかまつてゐる昼のつり革

神戸より早く咲きたる東京の花の盛りを歩みゆくなり

咲いてゐる桜の幹は黒いねと小さき声で呟くを聴く

言の葉を静かに重ね合ふひとの爪は短く切られてをりぬ

蜜柑より酸ゆき果汁を飲み干してゴヤの『巨人』の前に立ちたり

真つ黒な『巨人』の髪と真つ黒な空の真下にちぎれゆく雲

ゴヤがもし、桜を闇に散らしたら『巨人』は拳をひらくでせうか

子を喰らふサトゥルヌスの白髭がゆらゆら揺れる黒きカンヴァス

窓際の狂女フアナの頭上には籠で息衝く小鳥が一羽

人影のまばらな夜の美術館 パウロの前を行き過ぎる靴

美術館を出でて再び雑踏へ桜の雨にまぎれゆくなり



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2002.Jun 短歌人 水無月特集出詠