大ひなる下顎呼吸をひとつ終え抱かれて逝く冬のシェパード

完璧な骸になりぬまひるまのだらりと垂るる犬の舌魂

美しき鼻梁の人と仰ぎ見し昨夜の桜は散りつつあらむ

遠くから黙礼をして去るやうな終はらせ方が似合ふ恋です

うすぺらな手首容易く掴まれて駆け下りてゐる君の坂道



栗色のウィッグつけし友と見るアクアリウムの髭持つ魚

春風にベンチの上でめくられるタブロイド紙の生みし旋律

永遠に閉ぢ込められた君のごと伊万里の皿に跳ねる兎は

パステルの色鉛筆で縁取つたスケッチブックにすべりこむ人

怖ず怖ずと檻から逃げた象撃たれ見せ物小屋の前に置かれし



ロセッティの髪ゆるやかに撓ひたる女性がひとりバス停に佇つ

横にゐるあなたがなぜか笑ふから私も笑つている春日和

スイトピー溢れるほどに挿す花器は木の食卓の真中に翳る

朽ちてゆく向日葵の茎に角度生れ嵐のごときランボーは過ぐ

ささやかな嬉しきことが続く日にふと見つけたるかたばみの花



ガーベラの薄いピンクが好きですとただそれだけを告白しをり

臓物の漬りし瓶が微震にて命あるごと揺らされてをり

直立の私の皮膚に揺れてゐるキャミソールの裾のひらひら

純白はときに疎ましカンバスに極彩色の絵の具塗り込め


エレベーターのドアは閉まりて名も知らぬ男と昇る23階






(c) 山科真白  (Mashiro Yamashina)



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