芳一の耳
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漣のやさしき襞をかきわけて芳一の耳さがしにゆかな
波の音あつめて歩く砂の上 耳朶の真珠が小さく揺れる
やはらかく光の点を敷きつめて波は静かに寄せてゐるなり
聞かざりし言の葉あらば聞かざりしままに去りたし 風の向うへ
いつの日か水平線のむかうから白い帆船が見えくることも
とにかくも遠くへ遠くへ行きたいと行きたいと言ふ夏の太陽
さやうなら ふと翳りたる倫敦の搭の真下で別れませうね
溢れゆく炭酸水を吸ひこんでみづいろになるあなたのこころ
ピアノならほかの誰より知つてゐるわたしの指紋が黒鍵に這ふ
永遠をあなたは幾度も繰り返し生まれかはつてゐるはずでした
じつと見る癖はよせよな舌先で西瓜糖など舐めてみながら
夏はまう終はりのみどり靡かせて武器を置きたる兵士のやうに
太陽の光よじれて叶わざる玉響糸につなぎてみたり
白昼に女を撮るといふ愉悦ライカの眼が素肌を舐める
ゆつくりと爪の先から差し入れるサンダルもまたオブジェのひとつ
仄白き影がゆらりと纏ひつく女の脚を近づきて撮る
サルビアの蜜の匂ひのくちびるをレンズで盗む 女を盗む
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2003