足枷を解かれて呷る毒杯がソクラテスから届きて候
駆けつけた愛は捨つべき ミカエルの羽舞ひ降りる夕暮れの海
金糸雀が南を向いて睡りたる籠のうしろを通り過ぐなり
マチルダが首を抱いてゐる頁に挟まれてゐる薔薇の花びら
古の月の雫に濡れながら忘れ去らるるカリグラの椅子
駅を発つ人の波からはぐれたるあなたとわたしとわたしとあなたと
寓言と真珠をのせてこの夏はつりあつてゐる金の天秤
辿りつく想ひでは瑠璃 底浅き玻璃の器に浮かぶ蝶々
鳩放つ真似事をして青空に指挿し入れる初夏の朝
白猫にシェークスピアの妹も誘われて来し 初夏の噴水
噴き上げる飛沫の縁に生れてゐる虹の小橋をくぐる白昼
金髪のビスクドールを愛でながら男は南風に巻かれてをりぬ
縊られた王のことから話し出す雪のやうなる男の切歯
言の葉は光に溶けて漂ひて噴水の辺に溜まりてゆきぬ
まひるまの蟻は黒々繋がりて呪文のごとく列を成したり
うつすらと地上に近き空に浮く昼の月乞ふ人と歩みつ
太陽を繋いだという杭のあるインカの古都に我は行きたし
林檎でも無花果でも良いこの園の真ん中の樹に蛇は棲むとふ
何処かの半島に似し真つ黒きロールシャッハの染みの端々
ユトリロの空の色だけ語らひて繋がつているあなたとわたし
ゆだねるといふ至福を拒みつつ木は一心に天に近づく
咲き初むる黄梅の木の傍らで老犬ジョンは我を見上げつ
白昼の夢の記憶を曳きながら横切りたるや花の散る道
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