短歌人水無月集出詠
平日の美術館にて見つけたるマネのくちびるゴヤの耳たぶ
静物という名を持つた画のなかで果物たちは朽ち萎えてゐる
転がりし木の実の横に描かるる栗鼠の死骸に巣箱はあらず
腰掛ける切り株に似たカンヴァスに油絵の具のゆりは咲きをり
碧眼の老紳士と並び観るレンブラントのラクレティアの自刃
仄暗く浮かび出たる階段を登れば闇は終はるとおもふ
気がつけばコローの村を彷徨ひて春の日向の迷ひ子になる
草萌ゆる水辺にありし思い出は銀のくさりと赤きスカーフ
黙々と羊は草を食みてゐてその子羊を我は食まんと
カチカチと蹄を鳴らし生け贄にされた羊が追ひかけてくる
天仰ぐセバスティアヌスに刺さる矢を腿の下から数へてをりぬ
同じ絵を違ふ角度で観るふたり 対角線にあなたは居たり
模造した修道院の回廊の柱の影を跨ぎて歩む
春の陽がやはらかに降る水際にまぼろしの毬ころがりて来る
2001.4.7(SAT)
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