デルヴォーの女のごとく立ちつくす無機な裸体を照らす月光

ささやかな毒と名づけし夕暮れの塩水に浮く林檎の欠片

イカ墨のパスタを食みしテーブルに拙き嘘を零しをりけり

うなだるる赤薔薇の首剪り落とす刹那に生れし眩暈の闇

人型をとるがごとくになぞりゆく人差し指はチョークのかたち

逝く君に伝へる言葉失つて悲しく欲すヘルメスの杖

ディマシオの猿と語らふ人ありて散文劇の幕は開きぬ

男らは刻をさすらひ石鹸の匂ひの場所に還りゆくなり

うつぶせの曲線白く浮き出でるモノクロームの夕暮れの部屋

踏み切りが開きてそぞろに蘇る過去世の君に刺された記憶

完璧は運命の前に崩されてかのジャッカルも今は悲しき

イギリスの薔薇の香りを含ませたポプリの届く梅雨寒の午後

ピンクよりむらさきいろに添うらしきかすみ草の今日のご機嫌

曖昧に好きと嫌ひをまさぐりしシークレットサイトの夜の憂うつ

仮留めのまち針脇に刺したまま奇しき玩具のクマは踊りぬ




2000.5.28