ピノキオの鼻




































両価性の間で苦しむ人生は迷路を駆くる冒険にして

いいひとになれないわたし から笑ひ研ぎたての月ぽつかり浮かび

祭り夜に掬ひとられし金魚だわ 酸欠のわれ もてあそぶ君

「上手に嘘をついてごらん」 ジン舐めつつ うつむく君のピノキオの鼻

かの時のヴェネチアングラス手にとりてまわしみながら想ひ出懐古

ヨカナーンの首を奪ひて舞ひまわる サロメのごとく踊つてみたい

てらてらと輝く心臓を持つ男 むしやぶりついて食べてみやうか

ああ春は「ローマの休日」的せつなさが はらはら舞ふよさくら劇場

幾重にも塗り込められし想ひ出や 柘榴かちわり女女也

群青の深海の底 花倦んで冷えた女があぶくをたつる

せつなさがぐにやりぐにやり熱帯びて妄想の花咲きこぼれ女

脳髄でくゆらす狂気に中毒死ラファエロの天使に揺り起こされし

可惜夜の月に照らされせつなさが行つたり来たりのはぢらひのキス

淋しさに歪んで滲んでゆらゆらり 揺蕩ふこころ朝もやに似て

風に訊く 我は何処からきたのかと孤独の図柄考えし夜

泣き腫らす目など持たぬ平凡な幸せのなかにゐるのだから

耳たててつつつくつつくかき氷 夏の放熱たしかめたくて

寝転んで吾子と夏空仰ぎ見れば雲は終はりなき夢を紡いで

真白き月 真白き光 真白き雪 真白き貌のわたしは誰れ

たくらみが過ぎるカサノバ大ひなる嘲笑のなか芋虫の息

春月夜 ピアニッシモの足取りで巻かれた風にあなたのにおひ

クリムトが描いたやうな金の月 抱擁されて眺むるしあわせ

黒髪に樹雨の雫きらめゐて ふと歩を休め交はすくちづけ

人の皮 じわりじわりと剥く夜更け空笑とまらぬカラスが一羽




(c) 山科真白  (Mashiro Yamashina)



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