Surgical Hospital

温もりを残してをりし死者の手を我が白衣よりそつと外しぬ
死に人のすべての腔の暗がりに割り箸を持て綿を詰めゆく
明け方に逝きし患者が遺したる折り紙細工の焦げ茶の麒麟
亡き骸を送つてのちの帰り道 からだの赤き魚を買ひぬ
休日の卓に光は満ちてゆく。葡萄のジャムの瓶のプリズム
やはらかく命継ぎたき夕暮れはポトスの茎に水苔を巻く
葉桜のさやさや揺るる窓際に我の白衣は掛けられてをり
メス、メッツェン、コッヘル、ペアン、モスキート 鋼の器具を並べ置く台
血の色は人それぞれにちがうもの電気のメスの肉焼く匂ひ
胃の中を映したあとのファイバーの先のレンズを磨いてをりぬ
ガン末期患者に打たんモルヒネのアンプルを切る白い処置室
あの花が実をつけるまでわたくしは生きられますかと聞かれてをりぬ
乳房なき女の胸に浮く骨は冬の小舟に似てると思ふ
水紋がぱつと開いていくやうに命は喘ぎそして消えゆく
ももいろの消毒液で手を洗う日常をまた越えてゆくなり

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