テセウスの来信

山科真白短歌INDEX / HOME

薄氷をぴりりと割らむ羚羊の蹄に春が近づきにけり
織り里の乙女の指が手折りたる梅一枝の匂ひ満つるも
春浅き雨に濡れゐるふらここを微かに揺らす風の手の見ゆ
夢の戸を開くれば美しき夜のなかに孔雀が羽をひろげゆくなり
はらはらと羽根を散らしてガルーダは桜の園に吾を連れこむ
海底に植うる桜を選べとふ声のかたへにしづかに立ちぬ
しらほねはいづこにありや有正の愛した巴里を遠く思へば
アリアンヌへの手紙を乞ふよ くれなゐの糸は千歳に切れることなし
叢雲の剣をくはへし龍神が海の鳥居をくぐりゆきたり
不思議なることの続きて失せ物が思ひもかけぬ処より出づ
初夢は女だてらにもののふとなりて戦に参じたる夢
梅よりも先に花咲く桜あり 此度の椿事を帝に告げよ
卜筮に凝りしをとこが平成の世の政界にゐるとふ噂
居乍らにデジタルハイビジョン映像でチョモランマまで連れてゆかるる
口笛を吹けば黒毛の摺墨が闇夜を斬りて現れにけり
知らざあ言つて聞かせやせう 一息に聞かせて貰ふガウスの定理
くちなはをぐしやりと踏まむ春の夜はまことの罠に嵌りゐるかな
吾(あ)の魂(たま)を捕へて逃げる山神よ 二上山に寄りてゆかぬか
ひそやかに馬酔木を手折るゆふぐれは真白き壷にこゑを溜めゆく
うつすらと繋がることの快楽とは永久に消えざる淡雪に似て
翼なき鳥もひそむといふ春の渡しの舟に星影の落ゆ
言葉など要らぬ春夜ぞ 八房は伏姫桜を見上げてをりぬ
2010年春 山科真白 短歌作品

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