梅雨の栞




曇天に危ふきまでの赤橙や 凌霄花の横を過ぎたり


男人が交つたままで発車する女性車両に夏の汗臭


下車すれば瞬時に客は散らばりて縁などなき同乗の刻


わたくしの縁のリストを所有して薄つぺらなるスマホの余裕


セキュリティは完璧なりて確実に認証さるる指を従へ


梅雨明けも間近といへどねつとりと雨の匂ひがハンター坂まで


新婚の薬剤師の友とゆく神戸北野のアンクィール


恋バナぢやなくて子バナに花が咲きローストビーフの赤き滴り


「ベニアカヲ」とふ幻の魚が炙られて切りきざまれて皿のまうへに


わたくしの神戸の海に接岸すボイジャー・オブ・ザ・シーズ十三万トンとぞ


ぞくぞくと豪華客船より下りてきた中国人らが神戸の街へ


爆買ひといふ言葉があるらしきまさかの品薄デパートを出づ


みづからを啄ばみても啄ばみても無傷なる鏡のまへのカラスを避けて


こもごもに勘違ひなど告白し類なる友にカラスを数ふ


サックスの音に誘はれ元町の萬屋宗兵衛カフェに入りぬ


丸い木のテーブルに先づ置かれたる珈琲の香に充ちてゆきたり


友の履く藍のミュールのあと追ひて地上に帰る夕まぐれかな




山科真白 短歌人2012年10月号 秋のプロムナード


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