| 山科真白 | - 2005/07/28
- まぁ、たいした話じゃないと言われたらたいした話じゃないんじゃがな。
ワシの家には2つの睡蓮鉢があってな。
そこにメダカが泳いでおる。
春過ぎから、メダカは交尾をはじめて、五月も終わる頃になりゃ、うじゃうじゃ子メダカが生まれるのじゃ。
子メダカは親と一緒だと親が食っちまいよるから、別にしたり、餌も工夫してやらんとならん。 睡蓮鉢の睡蓮は2つとも一度として咲いたことはないのが悔しいが、メダカのおかげでワシも楽しませて貰っとる。
毎朝、2つの睡蓮鉢と子メダカたちに餌をやって、食べっぷりを眺めながら、親メダカたちがどれくらい卵を産んでるのか見るのが日課でな。
メダカは産卵の後暫く、メスは受精卵を尻にくっつけたまま泳ぎ、昼くらいに水草になすりつけよる。
まぁ、よくも毎日毎日、メスは子をぎょーさん産みまくるわとワシも驚いておったが、 右の睡蓮鉢にはオスは何匹かいるが、左の睡蓮鉢には、オスは1匹しかおらんのじゃ。 ということは、左の睡蓮鉢の方では、生殖活動をオス1匹ががんばとるちゅうことなんやが、
その1匹のオスちゅうのが、冷凍カレイを解凍したような肌艶をしとってな、 ワシが見ても冴えへんヨタってるようなメダカで、ほんまにコイツが、ひとりでがんばっちょるんかいささか信じがたい。
そこで、ワシは毎日そやつを観察することにしたんじゃ。
すると、そやつは、なんと餌をまったく食いよらん。 全部メスに食わせて自分はヨタりながら悠々と泳いどる。ヨタリながら悠々ちゅうのは、ちょっとヘンやがのぉ。ハハハ。
毎日見るが、やっぱりそいつは餌を食わん。メスは全部毎日卵をつけるし一体どうなってるんじゃ。
メスが尻につけてる卵は受精卵なんじゃ。金魚みたいにわけもなく卵を産んだりはしない。
カフカの小説に『断食芸人』つうのがあったが、『断食魚』よろしく、そいつは、餌をメスに譲り、ひたすら生殖活動だけをやってるなんぞ、なかなか見上げた根性じゃねーか。水中のプランクトンをパクパクしてるくれえじゃ、そりゃ、肌艶も悪くなるだろうよ。
その断食魚はそのまま生き続けた。
夏のえらい暑い日、突然、断食魚が死におった。
なぜか、そやつの命は永劫のような心持ちで見ておったからワシもなんや辛かった。 死んだ断食魚の周りを卵をつけたメスが泳いでいた。
次の日、メスは1匹も卵をつけとらんかった。 そして、咲いたことのない睡蓮が真っ赤な花を咲かしておった。
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