飴
ユキは幼い頃、祖母とよく墓参りに行った。
祖母は朝から庭の花を剪り、その花をユキは腕いっぱいに抱えて祖母について行った。
墓地には大小合わせていくつかの墓石があり、そのひとつひとつを祖母はきれいに磨き、花を手向け、お供物をし、蝋燭と線香に火をつけると、手を合わせた。
祖母が微かな声で呟くように長々と経を唱えている間、ユキは雲の模様を見たり、囀る鳥の行方を探したりして時を過ごした。
墓から帰ると黙って祖母は飴玉を一粒ユキの口の中に入れ、そのあと必ず髪を編み直してくれるのだった。
ある夏、親戚の人たちに連れられてユキは墓参りに出かけた。
親戚のお兄ちゃんが不思議なことをした。
石の上に火のついた蝋燭を傾けて蝋をこぼし、その上に蝋燭を立てると蝋燭は手を離しても真直ぐに立っている。
「きれい・・」
おにいちゃんは、石の上に何本もの蝋燭を立ててくれる。
「きれい・・きれい・・とっても」ユキが蝋燭に近付こうと勢いよくしゃがんだ時だった。
蝋燭の火がユキのスカートに触れ、燃え上がった。
少女が燃える時、パチパチという音がした。
ユキの火傷はひどかった。特に左脚は広範囲に爛れた。動揺のおさまらない両親は娘を熱心に皮膚科に通わせることで心の平衡を保とうとしていた。
病院に行った翌日の両親が留守の昼間、祖母はユキの脚の包帯をはずし、医者の塗った白い軟膏を微温湯で丁寧に洗い流して、自分の用意した布を傷に貼った。
油紙を当て元通りに包帯を巻き、飴玉をユキの口に入れ、髪を編み直した。
そしてまた、病院に行く前日にしまって置いた医者のガーゼを自分の布と取り替えた。
その儀式のような奇妙な祖母と少女の光景は、中国の纏足作りに似ているのではないかと成長したユキは思う。
無言で流れる時間には信頼という絆が大河のように横たわる。
それから祖母が亡くなるまでの数十年間、ユキは祖母と何の話をしたのだろう。
最低一年はかかると言われていた火傷は三月で治った。
あの魔法のような布に染み込ませていたものについても話したことはなかったし、どうしてあの日、祖母が墓に行かなかったのかもユキは思いだせずにいる。