固有名詞のデュプリケーション



俳句   笹心太   短歌  山科真白



Prometheus

迎え火 送り火 プロメテウスの妻     心太

心にも火を持つことを与えしやプロメテウスの赫きトーチは     真白


Vincent van Gogh

ゴッホの黄色執拗な耳鳴り     心太

妄想のお花畑は黄色くて削いだ耳までさがしてしまう      真白


Joannes

ヨハネの首が転がっているかもしれない     心太

赤白と椿は順に落ちゆきて次はヨハネの首落つる音      真白


Edgar Allan Poe

ポーの憂鬱 ザラザラと舌    心太

「あのことは誰にも言わずにいてあげる」片目で喋るポーの黒猫     真白


Hamlet

ハムレット卵はどのように焼きましょう    心太

おそらくはハムレットの父だろうブルーコンタクトを入れていたのは   真白


Franz Kafka

可不可というハンドル 底冷えの夜    心太

周到に殺め棄てても立ち上がる掟の門の番人の面    真白


Jean-Paul Sartre

そろそろ発芽かサルトルの勲章    心太

すがりつくことなきままにサルトルとボーヴォワールの声音の会話    真白


Immanuel Kant

カントの欲望 磨かれた手錠    心太

問いかけも折り目正しき独身のカントと食みし昼の食卓    真白


Georges Rouault

魂を閉じこめたルオーの輪郭    心太

黒暗に月したたりしこんな夜はルオーの眼で陰湿を見る   真白


Jean Cocteau

コクトーの右か左か丸めたレシート    心太

ささやきに阿片の香り纏いつき彷徨う夏のコクトーの庭     真白


William Blake

盲いて見よ ブレイクの毛穴    心太

幻想の天を疾駆し終わるころブレイクの書に白馬を返す    真白


Pandora

パンドラの箱にしまっておきます テロ教本    心太

諳んじている恋文をしまいたる貝殻細工のパンドラの箱    真白


Argos

乳房から消えてゆく女 アルゴスの微笑み    心太

アルゴスの眼を貼りつけた羽根展げ悪しき孔雀が私に向かう    真白


Pieter Brueghel

新店長はブリューゲル 骨付きチキンが目玉です。    心太

ブリューゲルの民衆より汝がさがし孤独の塗り絵色埋めんと    真白


Nikolai Vasilievich Gogoli 

外套をお預かりしています 同志ゴーゴリ    心太

ゴーゴリの外套いまだ見つからずひそかに夜を渡る足跡    真白


Albert Camus 

角度に不満を残しているカミユの首吊機     心太

美しき菩薩のごとき笑みたたえ積んでは壊すカミユ的積み木    真白


Hermann Hesse 

水澄しは動かないヘッセの轍    心太

天鵞絨に閉じこめられた君もいるヘルマン・ヘッセの蝶コレクション    真白


Aurelius Augustinus 

告白という儀式アウグスティヌスの眩暈    心太

生ハムにメロンをのせて気取り屋のアウグスティヌスに差し出してみる    真白


Othello

夜を奪われたオセロウ ヌエの鳴き声    心太

オセロウの嫉妬の渦に呑みこまれ君の肌から噴き出でる黒    真白


Sada Abe

他愛なき一物 定の端唄    心太

安部定のアンビバレンツの終点ににぶき刃物のきらめきを想う    真白