Memento mori






:: 初枝
国を産み神を産みはた人に死をもたらせたるは伊耶那美之神
:: 真白
マネキンの首より先に転がりし冬の林檎を追ひかけてゐる
:: 初枝
ロンドンの霧を裂きたる夢を見て今宵ジャックの満ち足りた部屋
:: 真白
純白のシーツのうへに横たはるラスコーリニコフの髪に触れにき
:: 初枝
まみどりの葉に中にあり柚子の実は固く見えけりまみどりにして
:: 真白
けふ剥いだ赤き魚のいろくづを拾ひあつめて捨てさりにけり
:: 初枝
黒ぐろと横たはる髪跨ぐとき踝に絡み付くだらう、きっと
:: 真白
九相図と死の舞踏を並べ置く真昼間青き竜胆が咲く
:: 初枝
十三夜の毒気に中りて黄じるしと言はるるままに時は過ぎ行く
:: 真白
人形のなかにひそむと言ひ置きて男がひとり地図から消ゆる
:: 初枝
息かけて寒い寒いと暖めてその手を離す時の思ほゆ
:: 真白
現代に古式ゆかしき形式の文通をするあなたとわたし
:: 初枝
前習へしてゐたころの秋の日の地球の丸さを知らないわたし
:: 真白
アヌビスに何千年と守られる死者の眠りに触れるな、月よ
:: 初枝
天秤に心の臓は乗せられてかすかな震へを知られてしまふ
:: 真白
岩盤へ罅を入れむともぐりゆくなゐの神まで文を届けぬ
:: 初枝
まだヒトは滅びのときに気づかずに大鯰のうへ諍ひをする
:: 真白
錦絵の歌舞伎役者の面立ちに似たる左官が壁を塗りにき
:: 初枝
過ちをブラックホールに放り込みチチェン・イッツアの生け贄を悼む
:: 真白
歩をとめて君とわたしが見る月は金の光を空に吊りけり










藤田初枝 and 山科真白

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短歌コラボレーション2010年10月11月