砂漠の幻夜






:: 初枝
なつ、夏 をんなぢからを試さるる季節を前にしぼみゆくわれ
:: 真白
吾の手を細く切り裂く赤薔薇の匂ひの満ちる庭に眠りぬ
:: 初枝
ラヂオから流るるこゑに誘はれ目を開けたれば空襲の街
:: 真白
ベツレヘム嬰児虐殺そののちの砂塵はしづかに地に積もりけり
:: 初枝
やはらかく忍び寄る舌囁きは快楽(けらく)の蜜に満ち満ちてあり
:: 真白
運命の輪とふカードを引きあてむ 真昼に靡く草叢のあを
:: 初枝
生霊となりて蔓延る道もよし護摩の匂ひに包まれながら
:: 真白
六条御息所のうつくしきくちびるに寄す葵一花
:: 初枝
丑三つの胸にきりきり突き刺さる呪詛の刃を目開いて見む
:: 真白
不意に手を離れて空へ旅立てる黄の風船を見送りてをり
:: 初枝
キャラバンは無言の影絵月光のシルクロードを西へひた行く
:: 真白
ものがたり千夜語らふ麗しきシャハラザードのこゑの思ほゆ
:: 初枝
蜃気楼この世の夢を映せとて砂漠の中に消えてゆく人
:: 真白
漆黒の肢体を幹に添はせつつ雌豹は闇をしづかに纏ふ
:: 初枝
二秒のち潰されんとする蚊のために二秒吾が血を吸はせてやりぬ
:: 真白
隠し持つ銀の刃に触れながら君と天気の話を終ふも
:: 初枝
月の声聞こえるまでを勤しみて今日は朔風荒れ野にひとり
:: 真白
断崖にひつそりと咲き朽ちてゆく真白き花を吾は知るらむ
:: 初枝
地獄への入り口に立ち怖ぢてをり カロンの舟は往ってしまへり
:: 真白
掬はれるやうにおまへに運ばれてうつし世にまた戻り来たりき










藤田初枝 and 山科真白

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短歌コラボレーション2011年夏