コクトーの夏






:: 真白
白百合のひそかに咲ける丘をゆく天使を見しやコクトーの夏
:: 初枝
愛なしで生きてゆきたしパ・ド・ドゥを独りで踊るプリマのごとく
:: 真白
碧眼の美貌の猫がしなやかに真夏の虹を跳び超えてゆく
:: 初枝
狙われて撃たるるほかはなき宿世 離れ小島であなたを待たん
:: 真白
死の島へ棺を運ぶぬばたまの夜の細波に月の照りける
:: 初枝
静寂を司るもの風ひとつ起こさで黒き羽根をふるはす
:: 真白
ダチュラ咲く庭より幽かに青洲の足音がして眠り落ちたり
:: 初枝
焼かれしも誰かの胸で心臓が生き続くとふ神話めくはなし
:: 真白
偶然に貰ひ受けたる角膜に銀河の果ての光を満たす
:: 初枝
やはらかな陽射し恋しみこの夏を厭ふ私の女郎花咲く
:: 真白
黄の色の帯を締めれば祭夜の君の浴衣に金魚が泳ぐ
:: 初枝
ボサノヴァのリズムを乱す午後五時の電話は不穏な気配に満てり
:: 真白
黄昏のくちなは眠る山裾を跨ぐ夕雲流れくるらし
:: 初枝
新しいスカート履いてお出掛けの朝は空からバスの現はる
:: 真白
隣合ふ席の縁や英語にて日本老女がイエスを語る
:: 初枝
恋に身を焦がせるおんなの末路とて紅蓮地獄に堕ちてみようか
:: 真白
火のやうなをとこの嘘の綻びを知らぬふりして抱き合ひにけり
:: 初枝
せめて名を聞いておけばよかつたと少しの後悔二秒で忘る
:: 真白
夏に咲く桜があらばその幹で囀る鳥のこゑの聞きたし
:: 初枝
あかときの紫だちたる雲のはて君の名前をそつとくちにす










藤田初枝 and 山科真白

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短歌コラボレーション2010年8月