檸檬を置きて立ち去りしこと






:: 真白
幽明のさかひを飛ばむ真白斑の鷹が戻りし家持の肩
:: 初枝
うらのかほ利かす女となりにけり根の堅州国たづねてゆかな
:: 真白
くちなはの棲家に眠るわたくしの首にしゆるしゆる巻きつくな、夢
:: 初枝
無花果の甘さくらいの恋人が朝だよつて教へてくれる
:: 真白
右左いづれをゆけどみづに逢ひ夢応の鯉魚に化身するらし
:: 初枝
仏法僧、つぶやけば空一面に諸行無常の輝ける虹
:: 真白
秋に入る谷間の沢に口づけて山の禁忌を君と冒さむ
:: 初枝
満月の空に響くはぎやうぎやうと死出の田長の行き来しつらむ
:: 真白
行き戻るあの世とこの世に浮く月を知りて南へ時鳥往ぬ
:: 初枝
瓢箪から昔男が現はれて髪にくちづけする夏至の夜
:: 真白
業平の狂へる桜を咲かせたるラニーニャといふ女の子ゐて
:: 初枝
五月雨の傘もささずに行くひとを留めかねてき二十歳のわたし
:: 真白
熟さぬが心地よきゆゑとろとろと巷も溶かす半熟カステラ
:: 初枝
店先のテレビに映る吉原の「遊んで行きな」の声なまめかし
:: 真白
やはらかき君の心に凭れつつ蜜を含んだ紅を塗りをり
:: 初枝
禁じられた遊びへ誘ふ同性の友の首なる銀の十字架
:: 真白
サッフォーの愛の詩篇を喰ひちぎり夜の果てまで走りし犬よ
:: 初枝
駆け抜けたトーキョーの夏汗まみれ醒むれば秋に気が付いてゐる
:: 真白
ナリタより紅葉一葉貼りつけたトランク片手にパリに飛び発つ
:: 初枝
さいならと言はれ一人になる駅の改札横に檸檬を置きつ










藤田初枝 and 山科真白

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短歌コラボレーション2010年秋