西王燦・山科真白


 の 歌  (秋編)



てんたかし【天高し】 秋高し 空高し (三秋)

空は澄み、雲もなく、ひろびろと高いかんじをいう。晩秋十月ごろ
が、最もこれにふさわしいと思う。   俳句歳時記 秋 平凡社



京都競馬場から宇治川を渡りつつ呟いてみる 「天高し」やね  燦

天高し 禁断詩篇をブラウスの内側に抱く秋の眩暈  真白



あきかぜ【秋風】 秋の風 金風 爽籟 風の爽やか (三秋)

秋吹く風であるが、古来この風に心の寂しさを託して詠む習慣が
ある。現代のように写生を主とする俳句に於いても、まだ多少は
その習慣が残っていることは否み難い。秋が次第に深くなるにつ
れ、自然の姿が寂しくなり、風音も耳についてくるので、自ずか
らこのようなことになるのであろう。   俳句歳時記 秋 平凡社



亡霊の群れがせはしく秋風と手を組みたりし気配ざわざわ 真白

秋風を感じる乳首つんつんと夢の往還は寂光院まで  燦



いわしぐも【鰯雲】 鱗雲 (三秋)

澄んだ空の一方から半ばへかけて、片々たる鱗状の雲が、群れ広
がっているのをいう。秋の雲の中で特種のものだが、見かける割合
は多い。巻積雲の一つの呼称である。  俳句歳時記 秋 平凡社



鰯雲やや痩せて見え老い人のサイデンステッカーを想はす心地  燦

アトラスの息に吹かれて鰯雲散らばりてゆく秋の夕なり 真白



つき【月】玉兎 銀兎 皓魂 氷輪 氷鏡 水精 玉鏡 金丸 月球 桂男
月読 月夜 月代 月明 薄月 残月 月蝕 月の暈 他多数(三秋)

月の趣は四季それぞれに異なるが、秋は殊に美しく清らかであるた
め、古来、月といえば秋の月をさすことと定められている。八月十
五日夜を名月または月見というのは中国の中秋名月の詩歌が輸入
されて、風流人の行事になる前に信仰的な意味があった。暦の普
及すには、月々の祭りの行われる折り目の日であって、ことに陰暦
八月る前は、初穂であったらしい。     俳句歳時記 秋 平凡社



恋人は熾火色したの夜に変身を終へわたしをいだく 真白

はいま出町柳にかかりゐて居酒屋田吾作いづこぞいづこぞ  燦



あまのがわ【天の川】 銀河 星河 銀漢 雲漢 天漢 河漢 (初秋)

七夕祭の伝説と天の川とは分離することはできないが、晴夜、
空を横ざまにつらぬく恒星群で、帯状と形容することもできるし
川状と形容することもできる。薄くけぶる細かい星群の中に大
きく、粗い星もきらめいて美しい。  俳句歳時記 秋 平凡社



西陣織がま口ゆゑにいじじむさい蝦蟇ぢやなくつて天の川入る  燦

天の川まさかカロンはゐぬゆゑにまばゆき星を踏みてゆくべし 真白



のわき【野分】野わけ 野分立つ 夕野分 野分波 野分雲 野分跡 野分晴 台風(仲秋)

陰暦八月、野に長けた草を吹き分ける大風を斯く名づけたのであるが
古句を読むと、これは現今の台風だということがわかる。枕草子と源
氏物語の野分の巻に有名な描写がある。  俳句歳時記 秋 平凡社



野分あと掻き集めたる悪の華ボードレールの眼光強き 真白

恋人は「いかへんかった」と小声にて イクとはなんぞ野分の東寺  燦



きり【霧】  朝霧 夕霧 夜霧 霧の色 霧の帳 霧の海 霧の谷 川霧
山霧 野霧 狭霧 薄霧 濃霧 大霧 八重霧 霧雨 霧時雨 霧の雫
霧立つ 霧深し 霧晴れる 霧のまぎれ 霧の香 霧匂う 霧の声(三秋)

湿度の高い空気が寒冷に触れると、凝結して霧となる。晩秋に至
れば朝夕時にそれがはっきりする。  俳句歳時記 秋 平凡社



ふかき京丹後にて別れなむ小野小町に海の歌多し  燦

濃いのみづべで垂らす釣り糸は銀の鱗を擦りてゐたり 真白



いなずま【稻妻】稻光 稻の殿 稻魂 いなつるみ いなつるび ももかがり (初秋)

暗い夜など、遠空を見ていると、しばしば閃光の現れることがある。こ
れは空中電気の放電現象で雷鳴を伴わない。俗には雷鳴を伴う閃光も
稻妻というけれど区別しなければならない。 俳句歳時記 秋 平凡社



稻妻にうたれて奇し色硝子 ヨハネの首は皿に置かれる 真白

稻妻は文庫本『古都』を照らしゐるがなぜ北山は暗いのだらう  燦



NISHIOU SAN & YAMASHINA MASHIRO

2005.9月