西王燦・山科真白


 の 歌  (夏編)



なつのそら【夏の空】 夏空 夏の天 夏天 (三夏)

きらきらとまぶしい夏の大空である。むくむくと入道雲が湧いたり
するといよいよ夏空の感じが深い。   俳句歳時記 夏 平凡社



きみは今動きを止めて夏の空のおほきな嵩を感じてゐるか  燦

夏の空ゑがくあなたに滴りし汗をしづかに拭ひてをりぬ  真白



くものみね【雲の峰】 入道雲 積乱雲 雷雲 夕立雲 鉄鈷雲 (三夏)

夏の自然を最も顕著に印象させる雲像の一つ。雲を峰と形容する
詩的表現はかなり古いもので、古俳諧以来遍く愛用されている。
気象学でいうところの雄大積雲、あるいは積乱雲を指し、その壮
大なかんじを表現したものである。   俳句歳時記 夏 平凡社



ヘルメスのサンダル履きて青空を翔けてゆきたし雲の峰まで 真白

雲の峰極まるところ爽やかなエクスタシーの記憶のごとし  燦



かみなり【雷】 いかずち はたたがみ 鳴神 遠雷 軽雷 迅雷
疾雷 雷雨 日雷落雷 雷火 雷鳴 雷声 雷神 (三夏)

雲中に蓄積された電気が、他の雲または地面などの間に
放電する時に生ずる現象である。俳句歳時記 夏 平凡社



遠雷は恋愛に似て唇の求むるものを許すやいなや  燦

いかづちに真一文字に裂かれたる木股を晒す嵐が丘は 真白



ゆふだち【夕立】ゆだち よだち 白雨 驟雨 夕立雲 夕立風 夕立晴 夕立後 夕立ち(三夏)

万葉では、『暮立の雨』と詠んでいる。夏の俄か雨のことである
が夕方が多いところから夕立の名がある。むらさめ型すなわち
局部的な降り方であり時間も短い。  俳句歳時記 夏 平凡社



ゆふだちに洗はれてゐる夏草をひらひら見ゐる真夏の金魚 真白

ゆふだちに髪の香そぞろ混じりあふ文庫本『さかしま』読みさし  燦



じり【海霧】 霧笛 (三夏)

オホーツク海に面した北海道海岸を襲う濃い霧。湿気を含んだ海上
の暖風が寒流の上にきて冷却されて生ずるもの。白い厚い霧に包ま
れて姿の見えない大船が港のどこかでポウポウと霧笛を鳴らすのを
聞いたとすると、そぞろにさいはての旅愁旅情をそそられる。普通の
秋の霧とは違った浪漫的な情緒がある。  俳句歳時記 夏 平凡社



海霧見むと誘へばはかなき恋の旅終はりならむか知床岬  燦

海霧晴れる間に交はす睦言も北の旅路の栞となりし 真白



ひょう【雹】 氷雨 (三夏)

積乱雲から降る氷塊で、はげしい雷雨のときに降るのがふつう
である。大きさは普通、豆粒くらいであるが、時には拳大のもの
もある。氷雨とは雹の古名である。  俳句歳時記 夏 平凡社



屋外でに降られてゐたやうな穴の開きたるチーズの欠片 真白

寂しげな動物園の片隅の犀の親子には降りをり  燦



えんてん【炎天】 (晩夏)

日盛りの刻の空である。炎夏という語があり、夏を司る神の名に、炎帝があ
り 炎ゆ という語も季題として熟しつつあるようだ。俳句歳時記 夏 平凡社



炎天をふたり歩みて入る部屋の棺(ひつぎ)のやうな静けさがいい  燦

ジル・ド・レの青き髯さへじりじりと焦がしてしまふ炎天の日よ 真白



あさやけ【朝焼】 (晩夏)

朝日の出る前に東の空が紅葉色に染まることをいうので夏に限った
ことではないが、盛夏の時分に特に顕著である。朝焼の時は天気が
悪く、夕焼の時には、よくなるといわれる。 俳句歳時記 夏 平凡社



読み終へしユイスマンスを膝に置きくれなゐ深き朝焼を浴む 真白

せめてあと一泊したいと言ふ声の朝焼色のルージュ掠るる  燦



NISHIOU SAN & YAMASHINA MASHIRO

2005.7月